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これまでのCRMとERPは死に絶える? Microsoftの「Dynamics 365」が市場にもたらすインパクトとは
2016年9月30日 12:00
米MicrosoftのDynamics セールス&パートナー担当、フランク・ホランド(Frank Holland)コーポレートバイスプレジデント(CVP)が来日。Microsoft Dynamics 365の事業戦略などについて説明した。
日本において、Dynamics 365の詳細について説明するのはこれが初めての機会。ホランドCVPは、「Dynamics 365はプラットフォームである。CRMやERP単一の製品では実現できないソリューションを実現し、営業、マーケティング、顧客サービス、財務・会計、基幹業務と連携。それをIT部門の支援をなしに利用できるようになる。これまでのCRMとERPは死に絶えることになるだろう」とした。
また、「Dynamics 365は、今後2週間以内にリリースすることになり、価格も使ってみたいと思うものになる」などと述べた。ホランドCVPによると、10月11日にもリリースされる予定だ。
クラウド型のビジネスアプリケーションスイート「Dynamics 365」
Microsoft Dynamics 365は、同社のCRM製品である「Dynamics CRM Online」とERPソリューションの「Dynamics AX」をひとつのサービスとして統合し、Microsoft Azure上から提供するクラウド製品だ。
中堅・中小企業向けの「ビジネス」と、大手企業向けの「エンタープライズ」が用意され、営業、フィールドサービス、マーケティング、顧客サービス、プロジェクトサービスの自動化や、内部管理などの特定ビジネス機能の管理において、目的別のアプリを提供。同社では、「クラウド型インテリジェントビジネスアプリケーション」と位置づけている。
Dynamics 365の主な特徴として、現状のビジネスにあった状況からスタートし、自社の成長にあわせて拡張できる柔軟性を持つ「Purpose-Built」、慣れ親しんだ生産性ツールであるOffice 365アプリケーションを活用し、ビジネスプロセスの最適化による生産性向上を図る「Productive」、標準装備のインテリジェント機能を活用する「Intelligent」、柔軟性および拡張性を持ったアプリケーションとプラットフォームの実現により、成長にあわせた迅速な対応を可能にする「Adaptable」の4点を挙げる。
また、新たに提供されるマーケットプレイス「AppSource」とも連携。ここで提供される200以上のビジネスSaaSアプリ、アドイン、コンテンツパックが活用できるほか、共通データモデルの採用により、Office 365やPower BI、Cortana Intelligence、Azure IoTのほか、サードパーティーのビジネスアプリケーションとも連動することができる。
ホランドCVPは、「Dynamics 365の登場によって、今後、CRMとERMを別々に購入することがなくなる。だからこそ、CRMとERPは死に絶えることになる。我々は、CRMやERPという個々のプロセスにフォーカスするのではなく、それによってもたらされるビジネスパフォーマンスの結果にこだわることができる。その点が他社とは異なる。それがデジタルトランスフォーメーションであり、Microsoftならではの提案になる」とする。
さらに、「Dynamics 365では、ひとつのプラットフォーム、ひとつのアプリケーション基盤、ひとつの共通データモデルで利用できるため、従来のようにCRMとERPを結びつけるインターフェイスをIT部門に作ってもらう必要がなく、現場主導で迅速に活用できるのが特徴。また、AIは重要な要素であり、自動化しながら洞察を実現できるようになる。これもDynamics 365の大きな特徴であり、デジルタトランスフォーメーションを実現する要素になる」と語る。
先行導入事例として、米Johnson Controlsでは、センサーデータから洞察することで、1時間ダウンするごとに3300万円かかるコストを回避したことや、英Rolls-Royceでは飛行機1台につき、1年あたり2800万円のコストを削減した例などを挙げながら、「2020年には、価格よりも顧客体験が差別化要因になる。また、作業の切り替えに生産的な時間の40%が失われているといったデータや、デジタルトランスフォーメーションによって、年平均1億ドル以上の収益を生み出すといったデータもある。こうした市場の変化や課題に対応することができるのがDynamics 365であり、ビジネスプロセスのデジタル化が可能になる。そこに、インテリジェントビジネスアプリケーションとしての意味がある」と位置づける。
あわせて、ガートナーのマジッククアドラントでは、すでにDynamicsが、営業支援(SFA)やCRMにおいてはリーダーの存在にあること、ERPでもビジョナリーの位置づけにあることも強調してみせた。
米Microsoft Dynamicsアジア担当のサイモン・デイヴィス(Simon Davies)バイスプレジデントも、「先日、Hewlett-Packardが、社内のCRMをSaleforce.comからDynamicsへと移行するといった発表もあった。今後は、こうした動きが加速していくことになる」と自信をみせる。
一方で、Dynamics 365は、クラウドサービスとして提供されることから、CSP(クラウドソリューションプロバイダー)プログラムに参加しているパートナーを通じた販売も強化されることになる。
「Dynamics 365は、ISVやデベロッパーにとっても、高い価値を提供することできるソリューションであり、ビジネスチャンスを広げることができる。Dynamics 365によって、新たな利益を確保できるようになる」などとした。
これまでDynamicsを取り扱っていたパートナーがCSPプログラムに参加することに加えて、従来Dynamicsを取り扱ったことがないパートナーも、CSPプログラムを通じてDynamicsを取り扱うチャンスが増えることにもなる。
現時点では、その詳細などについては明らかにしていないが、Dynamics 365のリリースにあわせた販売支援策の内容にも注目されよう。
マーケットプレイスとの連携、パートナーシップによる新たな展開も
もうひとつ、Dynamics 365で見逃せないのが、新たなマーケットプレイスであるAppSourceである。
「ISVおよびデベロッパーが、Dynamics 365向けにIPやアプリを提供できるものであり、ユーザーは、そのなかから新たなソリューションや、最適なソリューションを選択して、簡単に試すことができる。顧客はこれを利用することで、Dynamics 365をビジネスプロセスのなかに迅速に適用できるようになる」(デイヴィス バイスプレジデント)としたほか、「AppSourceに対しては、スーパーポジティブと言えるほどいい手応えを感じている。現時点では、約200のビジネスSaaSアプリ、アドインアプリ、コンテンツパックを利用できるが、Dynamicsのリリースにあわせて、新たな数字を発表できる」としている。
日本においては、すでに日本語サイトを用意。「現時点では、日本のパートナーに説明が終了しており、今後、日本のISVパートナーなどが、AppSourceにソリューションをアップロードすることになる。グローバル企業は、すでにAppSourceを利用できるようになっているほか、日本のISVパートナーなどにとっても世界でビジネスができるチャンスが生まれる」とした。
さらに、Dynamics 365におけるパートナーシップについても言及した。
先ごろ発表した米Adobeとの協業においては、マーケティング機能での連携が図れるとした。
この提携では、Adobe Marketing Cloudを、Dynamics 365 Enterprise editionの推奨マーケティングサービスとし、Microsoftの次世代インテリジェントなビジネスアプリケーション向けの強力かつ総合的なマーケティングサービスを顧客に提供。「データ統合で協力し、人工知能や機械学習、高度分析を活用しながら、データドリブンの新しい営業およびマーケティング機能を構築することできる」とした。
また、LinkedInとの連携については、「まだ承認を得ていないため想定段階ではあるが」としながらも、「CRMのワークロードと、ソーシャルとの組み合わせにより、セールスコンタクトを改善。セールスをナビゲートする新たなソリューションを提供できるだろう」などと述べた。
米Microsoftでは2015年7月に、独立していたDynamicsの組織を、スコット・ガスリー氏が率いるMicrosoftクラウド&エンタープライズグループ(C&E)に統合し、Azureなどと開発環境を一本化。さらに、大手企業に対してはエンタープライズビジネス部門が、中堅・中小企業向けにはゼネラルビジネス部門が担当する体制とした。
「顧客の変化にあわせた改革であるが、これはMicrosoftにとっても、デジタルトランスフォーメーションであった。顧客の声を聞き、それにあわせた体制変更であり、営業体制も強化することがではた。AzureやOffice 365との連携などが進められるといメリットもあった」と語った。